検診でコレステロール値が高い方は、全体の約30%、つまり3人に1人です。かなり多い割合ですね。
しかし、この脂質異常症は自覚症状がなく、治療する理由がわからないため、そのままにしている人が多いように思います。
まずは、脂質異常症に関する治療や疑問について、代表的な質問にお答えします。
20〜30歳台でLDLコレステロールが180mg/dL以上ある人は、家族性高コレステロール血症(FH)の可能性があります。
このような脂質異常症の一種は動脈硬化が早く進み、若くして心筋梗塞になるリスクが高くなります。
私も30歳台の心筋梗塞患者さんを診たことありますが、働き盛りで心臓が悪くなったため、とても大変そうでした。
若い高コレステロール血症の人は、積極的な治療をお勧めします。
心臓病のリスクが高い脂質異常症の方の場合、コレステロール値を下げることで予防できることがわかっています。
ただ、50人〜100人に薬を飲んでもらって、ようやく1人の心臓病を予防できる計算なので、一般の方には無駄に感じられるかもしれません。
それでも、医師にとっては非常に重要なデータです。この辺りが患者さんと医師の間で感じ方が異なる部分でしょう。
脂質異常症は一部のケースを除いて生活習慣が大きく関わります。
食事や運動に気をつけて体調が整い、コレステロール値が安定する場合は、薬をやめることが可能です。
しかし、多くの人は生活習慣を改善するのが難しく、女性の場合、閉経後は生活習慣の改善だけではコレステロール値が下がりにくくなることがあります。
そのため、脂質異常症の治療は長期的に薬が必要な場合もあります。
検診の目的は、脂質異常症など病気の可能性がある人を早期に見つけることです。そのため、基準が厳しく設定されています。
実際には、体の状態によって多少コレステロール値が高くても問題がない場合もありますが、しっかり下げなければならないケースもあります。
その判断は医師の診察を受けて決めるべきです。
脂質異常症の治療に使われる薬、例えばスタチンやフィブラートには筋肉痛や横紋筋融解症といった副作用が報告されています。
副作用の頻度は全体の2〜7%とされていますが、重症例は0.1%未満です。
多くの人がこの薬を使用するため、わずか0.1%でも実際の患者数は少なくありません。
薬を飲む場合は定期的に血液検査を受け、副作用が出ていないか確認します。
副作用が出た場合は医師が適切に対処しますので、自己判断で薬を中止しないでください。
コレステロールは大きく分けて、LDLコレステロール(LDL-C)、中性脂肪、HDLコレステロール(HDL-C)があります。
脂質異常症の診断では、これらの値が重要です。検診でも、この3つを測定することがほとんどです。
たまに総コレステロールを測定することもありますが、脂質異常症の診断において重要なのはLDL-C、中性脂肪、HDL-Cの値です。
LDL-Cは、一般的には「悪玉コレステロール」と呼ばれ、動脈硬化を進める働きがあります。
このLDL-Cが高いと脂質異常症と診断され、動脈硬化が進行することで心筋梗塞や狭心症、大動脈瘤などの病気を引き起こすリスクが高まります。
検診では120mg/dL以上で脂質異常症が疑われますが、全員がこの値以下である必要はありません。
外来診療では日本動脈硬化学会のガイドラインや専用アプリを使い、患者ごとに最適な管理目標を決めます。
中性脂肪はエネルギー源となる脂質で、食事や空腹の影響を受けやすい特徴があります。
食事の直後に上がり、空腹が続くと下がります。健康診断の前の日に、夜遅くまで焼き肉を食べていたりすると、びっくりするくらい高くなります。
脂質異常症では中性脂肪の値が高いことが心臓病リスクと関連し、また、急性膵炎の原因としても重要視されます。
急性膵炎の症状は激しい腹痛が特徴で、重症化すると血圧が低下し、集中治療が必要になるケースもあります。
脂質異常症の予防には、中性脂肪の管理が欠かせません。
HDL-Cは「善玉コレステロール」と呼ばれ、動脈硬化を防ぐ働きを持ちます。
HDL-Cが低いと脂質異常症の一因となり、動脈硬化が進行しやすくなります。
脂質異常症の管理では、HDL-Cを適切に保つことも重要なポイントです。
脂質異常症の予防や治療には、適切な食事が欠かせません。
残念ながら「これさえ食べれば大丈夫!」という特効食材はありませんが、コレステロール値を上げやすい食品を控えることで改善が期待できます。
避けたい食品の例
・お菓子類
・甘い缶コーヒー(ブラックは除く)
・脂っぽい肉や魚卵
・ラーメンなどの高脂肪食品
これらを控えるだけでも、脂質異常症の予防効果が期待できます。また、肉の脂身や動物脂(牛脂・ラード・バター)は、控えましょう。
一方で、大豆、魚、野菜、海藻、きのこ、果物、玄米などの未精製穀類を取り入れた日本食は脂質異常症の改善に適しています。ただし、塩分の取りすぎには注意しましょう。
まずはカロリーを控え、野菜などをしっかり食べることから始めましょう。
運動療法は脂質異常症の治療において非常に重要です。中性脂肪を下げ、HDL-Cを上げる効果があり、有酸素運動が特に効果的です。
ウォーキングや軽いジョギング、ゆっくりした階段昇降などを日常生活に取り入れることで脂質異常症の改善につながります。
忙しい生活の中では、仕事の合間に体を動かす、エレベーターの代わりに階段を使うといった小さな工夫でも十分な効果があります。
脂質異常症の改善には肝臓の健康も重要です。過度の飲酒は肝臓に負担をかけ、脂質異常症を悪化させる可能性があるため、適量を守ることが大切です。
また肝臓の状態が悪くなると肝臓での脂質代謝が悪くなり、脂肪肝になる事もあります。
また、喫煙は動脈硬化を急速に進行させる原因となります。
脂質異常症と診断された方は禁煙を強くおすすめします。
LDL-Cを下げる最も一般的な薬です。スタチンの登場により、脂質異常症の治療は大きく進歩しました。心臓病の予防効果も高く、多くの患者に処方される薬です。
スタチンが副作用で使えない場合や、スタチンだけでは効果が不十分な場合に使われる薬です。脂質異常症の治療において、スタチンと同様にしっかりとした効果が期待できます。
中性脂肪を下げる薬です。脂質異常症の治療で高い効果を示しますが、生活習慣の改善と併用することが必要です。薬だけに頼らず、食事や運動もあわせて行うことが効果的です。
脂質異常症は食事や生活習慣に大きく影響を受ける病気です。日々のちょっとした工夫で改善が期待できます。
おいしいものを楽しむことも大切ですが、健康を第一に考えた生活を心がけましょう。